(1) 医療行為に関して医療者側に指示を与える (例えば終末期状態での積極的延命治療の中止)
(2) 自らが判断できなくなった際の代理決定者を委任する
という2つの形態がある。例えば (1) で文書の形で表されたものが、一般にリビングウィルと呼ばれるものである。
1995年3月の横浜地裁東海大事件の判決では、終末期状態における治療行為の中止や間接的安楽死を許す要件の一つとして、「患者本人の意思表示」が示された。この判決は、「患者の意思を確認する方法」という基本的に難しい問題を社会に提示したといえる。また、1997年10月に施行された臓器移植法にはドナー (臓器提供者) の生前の意思を表す文書の必要性が組み込まれている。しかし、これらの文書の有効性や現場で起こりうる問題点について事前に詳細な検討はなされていない。また本人の意思が不明な際の家族による代理決定については、現在の重要な論点である。
本研究は、日本の医療事情と日本の文化的側面に配慮しながら、日本の医療現場における事前指示の具体的な展開の可能性を模索するものである。即ち、(1) 事前指示の日本の医療現場での必要性の検討;(2) 必要ならば、どの様な形式のものが可能か (口頭か文書かなど);(3) 代理決定者としての日本の家族の役割の検討;(4) 事前指示の法制化の必要性の検討;(5) 各疾患ごとの事前指示、例えば末期がん患者、神経性難病の事前指示のありうる形態はどのようなものか、などを検討する。
本研究は、事前指示の日本国内の臨床現場での実施の可能性を検討するとともに、事前指示の今後の医療全般に対する有用性を、患者と医療従事者側の視点より検討したものである。これらの知見が今後の日本における事前指示のあり方に、何らかの役にたつことを期待している。同時に本研究で得られた成果は、国際的動向をも視野においている点で、諸外国へ日本の現状と方向性を紹介するという役割を持つ点でも重要である。日本の事前指示に対する理解、解決法は諸外国での議論に参考になることも期待される。
・・・次頁「研究組織および経費」に続く。