修論「高齢者ケアに関する政策決定過程をめぐるバイオエシックス的考察」注釈
(第3章:介護保険制度をめぐる政策決定過程の概要)


148 川村匡由:Ibid., pp. 39-40
149 厚生省介護保険制度施行準備室監修/増田雅暢著:1999,『わかりやすい介護保険法』, 有斐閣, 東京, p. 4
150 同上, p. 6
151 社会保障制度審議会は、社会保障制度審議会設置法 (昭和23・法律266号、廃止平成11・7・16・法律102号(未)) に基づき、社会保障制度につき調査・審議及び勧告を行う機関で、総理府に置かれている。同審議会は、自ら社会保険による経済的保障の最も効果的な方法又は社会保険とその関係事項に関する立法及び運営の大綱につき研究し、その結果を国会に提出するように内閣総理大臣に勧告し、内閣総理大臣及び関係各大臣に助言する他、内閣総理大臣及び関係各大臣は、社会保障に関する企画、立法又は運営の大綱に関してあらかじめ審議会の意見を求めなければならないとされている (厚生省社会・援護局/児童家庭局:Ibid., p. 231)。
 なお、本論中に取り上げられる社会保障制度審議会は、21世紀の高齢化社会に対応するために社会保障制度の総合的な見直しが必要になったとの認識のもと、社会保障の在り方について、1991年11月から社会保障将来像委員会において検討を行ってきた。同審議会の第1次報告においては、高齢者や障害者の介護について「家族による介護を公的に支援し、高齢者や障害者ができる限り在宅で生活することができるようにしていく必要がある」という指摘にとどまり、介護保障の費用については公費によるとも、社会保険によるとも明言されなかった (本沢巳代子:1996,『公的介護保険 - ドイツの先例に学ぶ』, 日本評論社, 東京, p. 104)。

152 本沢巳代子:Ibid., pp. 104-105 なお、同書は、この社会保障制度審議会の第2次報告について、'公的介護保険制度とは、要介護状態になった時に、現金給付、現物給付あるいはそれらを組み合わせることによって介護サービスを給付し、その費用を負担するものである' とした点で、「明らかに1994年春に成立したドイツの介護保険制度を念頭に置いたものであった」と指摘している。しかしながら、ドイツの社会保険方式の介護保険制度の場合、その対象者として、高齢者以外をも含んで設定していることに留意したい。
153 大学病院医療情報ネットワーク (UMIN), "新たな高齢者介護システムの構築を目指して" (last modified, Feb. 9, 1995) <http://www.umin.ac.jp/govreports/nursing/nursing.txt>
154 大学病院医療情報ネットワーク (UMIN), "新たな高齢者介護システムの構築を目指して" <上掲URL> 及び、 本沢巳代子:1996,『公的介護保険 - ドイツの先例に学ぶ』, 日本評論社, 東京, pp. 106-108の「高齢者介護・自立支援システム研究会報告書」についての議論を参照した上で、筆者作図。
155 本沢巳代子:Ibid., pp. 106-108 「高齢者介護・自立支援システム研究会報告書」では、介護保険導入を先取りした記述は多いものの、肝心の社会保険としての介護保険の具体的な制度内容は明確にされていない。この問題に関して、同書は「老人介護保険の具体的内容を明らかにすると、各方面から色々と議論が噴出し、紛糾する可能性があるため、審議会の議論に任せるという形をとったのであろう」と推察している。
156 坂本重雄, 山脇貞司編著:Ibid., pp. 67-68
157 同勧告においては「今後増大する介護サービスのニーズに対し、安定的に適切な介護サービスを供給していくためには、基盤整備は一般財源に依存するにしても、制度の運用に要する財源は主として保険料に依存する公的介護保険を基盤にすべきである。公的介護保険とは、要介護状態になったときに、社会保険のシステムを利用して、現物給付又は現金給付あるいはそれらを組み合わせた介護給付の費用を負担する制度である」と提案された上で、その理由として「長寿社会にあっては、全ての人が、期間はともかく相当程度の確率で介護を必要とする状態になる可能性がある一方、そのような状態になった老親をもつことにもなるから、介護サービスの給付は社会保険のシステムになじむと考えられる」と述べられている。
158 相沢與一:1996,『社会保障の保険主義化と「公的介護保険」』, あけび書房, 東京, p. 59 同書は、国庫負担軽減のための保険主義強化と給付の大幅な削減について、「抜本的な改悪 '合理化' を強行するもの」として批判している。
159 同上, pp. 71-72
160 本沢巳代子:Ibid., p. 109では、この結論付けについて、先の「高齢者介護・自立支援システム研究会報告書」で示された現物給付型の「老人」介護保険制度導入の方向を確認しただけで、介護費用確保のための他の方法の可能性を踏み込んで検討したものとなっていない、との指摘がなされている。いずれにしても、この老人福祉審議会中間報告は一貫して、現物給付型で、且つ「高齢者」のみを対象とした介護保険制度の方向性を示したものとなっているだろう。
161 本沢巳代子:Ibid., pp. 108-109の「老人保健福祉審議会中間報告」についての議論を参照した上で、筆者作図。
162 「介護給付」・「制度」・「基盤整備]に関する3分科会のこと。なお、老人保健福祉審議会第2次報告は、介護サービスの具体的な内容・水準・利用手続、及び介護サービスの基盤整備の在り方に関する主要事項を取りまとめたものである。なお、公的介護保険制度や費用負担については、上記3分科会の内、制度分科会で検討された議論の概要を示すにとどまるものであった、とする指摘がある (本沢巳代子:Ibid., p. 110)。
163 NCC Experimental WWW Server (国立がんセンター実験用サーバー), "厚生省関連の情報", '新たな高齢者介護制度について (第2次報告) の概要' (last modified, Jun. 13, 1996) <http://fms.ncc.go.jp/mhw/mhwinfo/0sj/9601/96013146.txt> 所在の報告書全文、及び、本沢巳代子:Ibid., pp. 109-115を参照。
164 上掲URL及び、本沢巳代子:Ibid., p. 110-111を参照の上、筆者作図。
165 なお、'将来利用できる介護サービスの水準や内容の具体的モデル' として、同報告中、「早朝・夜間・深夜の巡回サービス」「グループホーム」「虚弱老人に対する家事援助サービス」「住宅改修サービス」「ケアマネジメントサービス」等が挙げられ、「これらについても '給付対象' とするべきであるが、そのサービス水準の実現にはサービス基盤の整備や財源確保が必要である」とする見解が示された。
166 なお、同報告で、施設サービスにおける給付対象として「介護体制の整った医療施設」が設定された点について、「生活の場としても介護の人的確保の点からも不十分な状態にある医療施設を対象とすることについては、入所施設が不足している現状を考慮してもなお疑問である」とする指摘もある (本沢巳代子:Ibid., p. 110)。
167 ケアプラン作成に際しては、あくまでも、当事者の自己決定に基づいた上で、専門家に「作成依頼」が為されることが望ましいだろう。その場合、当事者の家族の意思の参画は勿論のこと、彼ら「非専門家」とケアマネージャー等の「専門家」との間のインフォームド・コンセントが確実に為されるよう留意される必要があるのではないだろうか。この観点において、少なくとも、ケアの当事者とその家族のケアプラン作成への参画を公的に認めた同報告の意義は大きいものと考えられる。しかしながら、同報告において「介護サービスの受給権」の法的性質は論じられておらず、また、ケアプランの作成に始まる「ケアサービスの利用」についても、ケアの当事者たる高齢者とサービス提供機関の法的関係等に関する記述は全くない、とする指摘もある (本沢巳代子:Ibid., p. 111)。これは「高齢者の自己決定権」に関わる政策決定過程上の重要課題として捉えられるだろう。
168 基盤整備促進のための方策としては、既存施設の転換促進等として、一般病院や養護老人ホームの介護施設への転換や、学校・保育所等の転用が挙げられている。
169 なお、同報告中、保健福祉に関する情報システムの整備や福祉用具に関する相談・情報提供、及び機能評価方法の確立の必要性については、具体的な提案は為されていない。
170 NCC Experimental WWW Server (国立がんセンター実験用サーバー), "厚生省関連の情報", '新たな高齢者介護制度について (第2次報告) の概要' <上掲URL、及び、本沢巳代子:Ibid., pp. 111-112を参照の上、筆者作図。
171 「福祉と人権」ネットワーク Humind (社会福祉法人), "介護保険関連情報のページ", '費用負担及び公的介護保険制度のあり方' (last modified, Nov. 13, 1999) <http://www.humind.or.jp/welfare/k-hoken/report2/rep2besi.html>所在の「別紙」全文、及び、本沢巳代子:Ibid., pp. 112-114を参照。
172 「福祉と人権」ネットワーク Humind <上掲URL> 及び、本沢巳代子:Ibid., pp. 112-114を参照の上、筆者作図。
173 老人保健福祉審議会では、1995 (平成7) 年2月の審議開始から、この最終報告が取りまとめられるまでの間、約50回もの会議が行われた。
174 特に、非効率となっている理由の1つとして「介護サービスが縦割りの制度のもとで別々に提供されており、サービス相互の連携が十分でないため、個々の高齢者のニーズに見合ったサービスが総合的且つ効率的に提供されていない状況が見られる」ことが行政側の認識として同審議会の報告中で挙げられたのは、意義深いと考えられる。しかしながら、この縦割り行政の弊害や福祉サービスの非効率性の問題について次のような指摘があることにも留意しておきたい。すなわち、「(縦割り行政の弊害や福祉サービスの非効率性の問題は) 福祉サービス全般に言えることであって、ことさら高齢者介護に限った問題ではない。(こうしたことが問題であると言うのであれば) 高齢者介護問題だけを審議する老人保健福祉審議会のあり方そのものを見直すことから始める必要がある。高齢者介護問題は、むしろ多くの問題やハンディキャップを抱える家族に対する総合的な福祉対策の1つとして把握し、その中で '家族問題として共通に対応できるもの' と '家族の抱える個々の問題の性質によって個別的に対応するべきもの' とを分けることによって、より効率的でしかも木目細かい利用者本位の福祉サービスの提供が可能になると思われる」とする指摘 (本沢巳代子:Ibid, p. 124) である。
 なお、上述の指摘は、その改善の方策について次のような提言もしている。すなわち、「家事援助サービス等は、要介護高齢者を抱える家族だけではなく、要介護ないし要看護児・者のいる家族においても必要なものであるから、これらのホームヘルプサービスの中の家事援助サービスとして一貫した制度の中で提供し、個々のハンディキャップに適切に対応すべき介護ヘルプサービスと区別する」という案である。なお、これらの福祉サービスの適切な提供を担保するための展望として「(審議会の) 報告書で提案されたケアマネジメントシステムを他の福祉分野にも拡大すればよいであろう」と述べられていることも注目されるべき点であると筆者は考える。

175 同目標は、介護サービスの対象を「高齢者」に限定することを、改めて明らかにするものである。介護サービスの受給権の平等性ないし普遍性が保証されるためには、要介護状態にある者全てが、介護サービス対象者となることが本来ならば望ましい。審議会第2次報告においても示されたように、「高齢ではない」障害者に対する介護サービスは「障害者福祉対策」によって対応することが基本とされている。しかしながら、こうした若年層の要介護者を支える家族の負担について考慮された「総合的な介護」の制度の在り方をめぐっては、今後も一層広範な議論がなされるべきだろう。
176 松原一郎:ibid., pp. 27-29、及び、本沢巳代子:Ibid., pp. 123-126の議論を参照した上で筆者作図。
177 「介護保険制度法案大綱」では、第2号被保険者から確実且つ効率的な徴収を確保するため、各医療保険者が自らの保険に加入している第2号被保険者の負担すべき費用を一括納付する方法が採用された。また、現行制度に比し負担が急増する医療保険者に対し、その財政力等に応じた公費負担として、国費による助成を行うことが規定された。
178 なお、老人保健福祉審議会最終報告が為された直後の5月15日、厚生省の「介護保険制度試案」が審議会に提示された。これは、施設サービスを切り離して全体のコストを抑えようとする自民党の丹羽雄哉・元厚生大臣の提案に基づくものであり、被保険者・受給者を40歳以上の者とする等、従来の高齢者のみを対象とする介護保険構想とは理念的に全く異なるものであった。さらに、5月30日には厚生省から「介護保険制度修正試案」が提案された。同試案では、開会中の国会への法案提出に不可欠な市町村の合意を得るため、「介護保険者連合会」を新たに設けることが提案された。しかし、こうした厚生省の試案・修正試案に対して「法案提出のための政治的判断が先行し、先の審議会の最終報告を無視したかっこうになっている」とする指摘もある。
179 「介護保険法」、「介護保険法施行法案」、及び「医療法の一部改正法案」の3法案。
180 厚生省介護保険制度施行準備室監修/増田雅暢著:Ibid., pp. 12-15
181 國武輝久編著:1999, Ibid., p. 181「図表 7-8 介護保険制度 (2000年度実施予定) の概要」より。
182 厚生省介護保険制度施行準備室監修/増田雅暢著:Ibid., p. 13中の「図3 介護保険制度の概要」を原図として筆者作図。
183 「審査支払機関」とは、医療保険各法等において、保険者から委託されて、診療報酬請求書等の審査を行い、医療機関に診療報酬を支払う機関のことであるが、老人保健法の医療、特定療養費についての審査支払機関は、社会保険診療報酬支払基金、国民健康保険団体連合会、国民健康保険中央会とされている (老人保健法29 III・31の2X, 老人保健法・施行規則21)。

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