日本のホスピス・ケアにおける自己決定の視座について
J1B001-6 青木康二

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はじめに

 自己決定(Autonomy)は、バイオエシックスの柱となる概念である。しかし、わが国では米国ですでに確立している自己決定を疑問視する風潮がいまだに強い。
 米国のホスピスでは、患者が医療者側にインフォームド・コンセントを与えていないとケアを受けることはできない。すなわち、医師は患者に十分な説明を行ない、患者は自分の意思でホスピスを選択し、そしてホスピスの医師や看護婦、ボランティアの人たちは患者の自己決定を助けるために、さまざまな援助を行なうのである。
 しかし、日本の現状では患者の意思がなくても、家族の意向などでケアを受けることができてしまう。すなわち、患者は自分の病名や病状、またどのようなケアがなされるかを知らなくとも、ホスピスでケアを受けることが可能なのである。この差違は、患者の自己決定を尊重しているか否かに起因するものであるが、筆者はこのような日本のホスピスのあり方に、疑問をもつ者である。
 筆者は、米国メリーランド州のHospice of Northern Virginiaと、ハワイ州のSt. Francis Hospice、そして東京都にある救世軍清瀬病院のホスピスを訪問した経験から、自己決定の視座をめぐって日本のホスピスの問題点について考えていく。

どうして自己決定なのか

 この章では、近年の医科学技術の発展による諸問題医療の2つの側面、全人医療、医療の倫理や世界のガイドライン形成という流れを振り返り、なぜ筆者が自己決定を主張するのか、これまでの米国での反省をも踏まえながら、述べる。筆者は、自己決定することは人間の義務ではないかとさえ考えるが、自己決定できるかどうかは、もちろんホスピスにおけるケアに大きな影響を与えるものでもある。

ホスピスの歩み

 ホスピスが20世紀になって初めてあらわれた概念ではなく、2000年以上の歴史をもった人権運動であることを理解するため、この章を設けた。人権に焦点をあて、現代ホスピスが誕生するまでの歴史をまとめた。

ホスピスとは何か

 イギリスのSt. Christpher's Hospiceに代表される現代ホスピスの概念や、米国のNHOの決めるホスピスの条件を検証し、現代ホスピスとは何かを考える。
 そうすると、現代のホスピスが患者の自己決定を尊重し、患者が自己決定できるように援助することに、いかに力を入れているかが浮き彫りになるのである。

日本のホスピス・ケアにおける自己決定について

 ようやくこの章で、日本のホスピスの問題点について述べる。厚生省が承認する緩和ケア病棟の基準や、筆者が実際に日米のホスピスを訪問して考えてきたことをまとめた。日米の間には、パンフレット、インフォームド・コンセント、ボランティア、在宅ケアの視点といった違いが顕著に見られたが、それらの問題点を自己決定の視座から考察してみた。

 結局、日本のホスピスに、自己決定の視座が欠落していることが分かるわけであるが、筆者は、患者を尊重するということは、患者の自己決定を尊重することにほかならないと考えている。
 患者が主人公となるホスピス、そして医療がわが国に根付くことを願ってやまないのである。


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