第二章 脳死・臓器移植の歴史
脳死と臓器移植との間には、非常に密接な関係が存在する。なぜならば、心臓・肺臓・肝臓・膵臓等の移植に関しては、脳死体からの臓器摘出が前提となるからである。脳死という概念の出現と臓器移植の発展はどのように関係を形成してきたのであろうか。脳死・臓器移植問題を論じる前に、その歴史を概観する。
第三章 日本で行われた臓器移植とその問題点
1968年の和田心臓移植に始まって以来、我が国でも脳死体臓器移植が行われていた。しかし、現在は脳死体からの臓器移植は全く行われておらず、また、行うことができない。このことは、過去に行われた臓器移植が多くの問題を抱えていたことに関係があると思われる。
日本において実際に行われた臓器移植のケースを取り上げ、バイオエシックスの観点から問題点を考察する。
第四章 日本において脳死体臓器移植を開始するために
脳死体からの臓器移植を開始する前に、その準備段階で解決されるべきことと、臓器移植開始後に直面すると考えられる問題について考察する。
臓器移植はその治療法の前提として、脳死の状態に陥った患者を必要とする。その脳死を判定する方法は万全なのか。また、臓器摘出の承諾を誰に求めるべきか。臓器移植が開始されると提供臓器の不足が予想されることなどを1994年に国会に提出された「臓器移植に関する法律案」や海外の状況などを踏まえつつ検討する。
第五章 おわりに
日本における過去の臓器移植は多くの問題を含んでいた。このことが、医師への不信感として脳死・臓器移植に対して不安を煽り、社会的な合意を得られないという結果になっている。現在の医療現場の体質やパターナリスティックな医師の態度は、今後改善されるべきであり、我々が自己決定権によって自らの生命の主権者たりえるようになることが重要である。
また、経済的問題や優先順位が存在する限り、すべての人間に平等にその成果が享受されないという点から、臓器移植は万全の治療法とはいえない。このことを充分に認識し、移植医療を実施して行かねばならない。