バイオエシックス的視座からのエイズ問題考察
---エイズと共に生きる---

J94B101-3 中村友紀

Japanese | English

序章 はじめに
 エイズ。それは『現代の不治の病』とも言われる病気である。完全な治療薬も未だ開発されておらず、HIV陽性となった殆どの患者にとって、エイズの発病と同時に確実な死へのカウントダウンが始まる。
 本論文においては、『バイオエシックス的視座からのエイズ問題』に論点を絞り、バイオエシックス的視座から、日本のエイズ問題の過去・現状の把握をし、それらを他国と比較検討する。更に日本におけるエイズ問題解決、現状の改善のためにわれわれは何をすべきであるかの案を提示し、日本におけるバイオエシックス運動の浸透を提言する。

第一章 エイズとは何か 〜医学的見地より解説〜
 エイズとはAquired Immune Deficiency Syndromeの略称であり、日本語では「ヒト免疫不全症候群」と訳出されている。HIV (Human immunodeficiency Virus; ヒト免疫不全ウィルス=エイズウィルス) というウィルスによる感染症の末期状態を言う。HIVに感染し、ウィルスが体内に侵入し、血清中にエイズ・ウィルスの抗体が出来ると発熱、寝汗などの症状が突如始まり、その後、PGLという外見的には無症状の状態が続く。病状がさらに進むと、エイズ関連症候群 (ARC) になる。そして免疫系の破壊が極端までに至ると、エイズという最終段階に達する。エイズの検査法にはELISA (エライザ) テスト、ウェスタン・ブロット法などがある。また、治療薬として現在日本ではAZT、ddI、ddC、など7種類の薬が許可され使われている。

第二章 エイズの歴史
 アフリカミドリザルなどのサルのエイズウィルスが進化した結果、ヒトのエイズウィルスになったという説が有力である。エイズの感染経路は限られており、1) 性的感染、2) 経血液的感染、3) 母子感染、4) HIV感染のハイリスクグループなどがある。

第三章 各国におけるエイズ対処の歴史と現状
 1997年11月26日にWHOによって発表されたエイズについての報告によると、エイズは予想以上に急速に世界に伝播しており、問題は更に深刻化しているという。各国固有の歴史・文化、価値意識、情勢がエイズ予防対策の大きな壁となっているが、我々はこのエイズの急激な蔓延の事実を真摯に受け止め、改善せねばならない。

第四章 エイズ問題のバイオエシックス的考察
    〜日米比較の視点から〜

 『エイズ対策先進国』とも言うべきアメリカでは最初に発見されたエイズ患者がいずれも男性同性愛者であった為に、エイズ患者に対して多くの誤解や偏見を生んだが、CDCやNIHのような研究施設によっていち早くエイズの原因が突き止められた。現在も政府関連施設などによって研究が盛んに行なわれる一方、コミュニティに基盤をおいたホスピス、その他、多くのボランティア団体によってグラス・ルーツの活動も行われている。アメリカにおけるエイズ対策活動の全てには、自己決定・恩恵・公正・平等の四つのバイオエシックスの基本原理が色濃く投影されている。
 では、日本におけるエイズ問題はどのようなものであろうか。日本には癩病患者に対する法的・人的差別の歴史があるが、エイズにおいても、現行エイズ予防法には患者の人権を全く無視した表現が多い。また、医療においても未だに医師のエイズに対する知識の不足などを理由に診療を拒否する病院がある。ホスピスについては、近年施設数も増えてはいるが、地域をベースにした連帯が確立されておらず有効に機能しているとは言い難い。以前に比べればエイズに対する人々の関心・知識は高まってきたが、改善せねばならない点は多く残っている。
 そこで、今後日本はどうすべきかを提言する。まず、政府の対応としてエイズ予防法の改訂、次に医療従事者による患者への医療のあり方の改善、また、一貫したエイズ教育を行い、内容の充実化も図るべきである。さらに、ホスピスを中心としたコミュニティの形成促進もなされるべきである。これは医療者の負担を軽減し、より有効なケアを患者に提供することを目的とする。

終章 いのちを守り育てるために
 日本におけるエイズとの闘いはまだ始まったばかりである。単なるエイズ対策先進国における対処法の輸入ではなく、その根底の「いのちを守り、育てる」というバイオエシックス運動を浸透させるとともに、エイズ問題に取り組むべきである。


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