人と自然との新しい関わり方を求めて
J94B128-8 堀内有為子

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はじめに
 いま地球の危機が叫ばれ、環境に関する倫理が注目を集めている。改めて知 (科学技術) に対する智 (倫理) の必要性が認識されたのだ。バイオエシックスは、いのちの問題を、世界の環境とその関わりから再考するスケールの大きな運動である。私達の生活は、自然の生態系とその有機的連関を撹乱している。自然の再生に寄与する方向へ向けるために、どのような倫理観が求められるのかバイオエシックスの視点から考察したい。多角的に捉えるために具体例を多用した。

1. 猿害の意味するもの
 猿害とはサルの菜食活動が人間の生活領域や生産活動と競合している状況を示している。しかし、人間の側にサルの菜食活動を許容できるだけの経済や生活する上での余裕があれば、それは黙認される。逆に余裕がない場合、サルの行為は害とみなされる。つまり、猿害を猿害たらしめているのは、サルではなく人間の考え方である。猿害は、人の自然や動物への感じ方が、人の社会や生活の状態に大きく左右されていることの見本である。猿害を考える上で重要なのは、人が自然や動物をどう位置づけるかということである。

2. バイオエシックスからみた環境倫理
 超学際的なバイオエシックスは、環境に関しても一人一人がいのちの主権者として価値判断を下そうとする。私達の内面性の自己変革なくしては環境問題の解決はない。人は自然を専有物と感じている部分もある。しかし、歴史的にみると圧倒的に長い間、人は自然を敬い共生してきた。これからの環境に関する倫理は人間以外の存在の利益ないし価値も考慮し、すべてのいのちの尊厳を尊ぶものでなくてはならない。

3. 動物実験
 環境に関する倫理には、動物の権利や自然の権利を訴えるものが多くある。しかし、人間による抑圧と搾取は続いており、動物実験は顕著な例である。人間も含めてすべての動物は、苦しめられないという基本的権利を持っているのではないだろうか。動物実験の改善・削減・全廃への動きを通し、人間の欲望のために自然や動物を犠牲としない生き方を探る。

4. ザ・ボディーショップの示す可能性
 ザ・ボディーショップは化粧品を扱う企業である。今までの化粧品業界の常識を破り、動物実験を一切せず、廃止を訴えながら思想的にも経済的にも成功を収めてきた。さらに、店舗を教育の場として、消費者の環境に対する意識を高める試みを実践している。環境問題の具体的な解決策の一つとして、どう行動するかについて生活者が自ら考え、選択できる具体的なデータを企業が公開することが求められている。

5. もののけ姫のもつ変革力
 倫理というものは与えられて得られるものではなく、自ら考えて構築していくものである。先頃大ヒットした宮崎駿監督の「もののけ姫」は私達に自然との関わり方を再考する機会を与えてくれた。本映画には、自然に対しさまざまな接し方をする登場人物が現れる。現代に生きる私達がどのような生き方に共感するのかを問いかけているのではないだろうか。環境教育の重要性という観点から、広く人々に訴えることのできる手段であるメディアを取り上げた。

6. 生命の尊厳と人間の倫理観
 都市で生活する私達は、自然と接する機会が少ない。ゆえに神秘性や尊厳を感じにくく、自然を敬うことを忘れている。また、自然を敬う倫理をもたないため、自然に負担をかけることに罪悪感を感じず、環境を破壊し、さらに自然との触れ合いが減少する。これを断ち切るために、自然と接することが重要である。

おわりに
 本卒表研究は、精神的に豊かな営みとはどのようなものか、人間はどのように生きていくのが幸せかを探ろうとしたものである。これを考える上で重要なのはつながりではないだろうか。これまでの歴史において、権利を与えられていなかった多くのものが権利を勝ち取り、尊厳を認められるようになってきた。これからは動物や自然の尊厳が見直され、ある種の権利も認められるようになるのではないだろうか。そうなれば、私達はすべての生き物が織りなす編み目の構成員として他の生物とのつながりを実感でき、精神的に一層豊かな生活を送れるようになるはずである。


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