乳幼児突然死症候群 (SIDS) に関するバイオエシックス的考察
〜SIDSが意味するものとは・・・〜
J95B086-0 佐々木 隆次

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序章

 本研究では、まずSIDSを理解するために、SIDSに関する基礎的知識を概括し、続いてSIDSに関する国際的動向を確認し、欧米と日本の比較を試み、SIDSで子どもを亡くした親をサポートする「SIDS家族の会」についても触れる。
 次に、SIDSを医学的側面からではなく、社会的側面からとらえ、SIDSが孕む社会的問題を浮き彫りにし、その原因と対応について考える。
 最後に、バイオエシックスの視座から総合的考察を試み、SIDSをめぐる考え方の枠組みを提言したい。

第1章 SIDSとは

 乳幼児突然死症候群 (Sudden Infant Death Syndrome: SIDS)。文字通り赤ちゃんが突然死んでしまう病気である。原因は不明。日本では毎年約500人〜600人の赤ちゃんがSIDSにより命を落としている。この事実は一般によく知られているとは言えない。
 欧米では1960年代初頭からSIDSに対する研究が行われてきたのに対し、我が国日本では、研究のスタート地点に立ったのが1981年のことで、欧米とはおよそ20年もの開きがあるのである。しかも研究の前には日本社会という不徹底なシステムという壁があり、未だに正確なSIDSの発生頻度すら把握できていないという状況である。
 一方、あまりにも遅い国の対応に対し、SIDSで子どもを亡くした親達により構成されるボランティア団体「SIDS家族の会」は、各国のSIDSに関する情報にも敏感に対応し、今や日本のSIDSに関するイニシアティブを取り、更なる活動を展開しようとしている。

第2章 SIDSをめぐる社会的問題

 SIDSが日本で病気として用いられるようになり、これまで曖昧にされ続けてきたことが、社会問題として表面化してきた。本章では、その社会問題を大きく3つに分類し考察を進めた。

 (1) SIDSで助かる (無知による迫害)
 突然死で赤ちゃんを亡くした母親は、救急隊、警察、医師、さらには家族など、SIDSを知らない人々から犯人扱いされるが、SIDSは原因不明の病気であるが故に、自責の念に苛まれる母親を救うという重要な役割を果たすため、無知による迫害を無くすためにも、早急かつ大規模の、正確な情報提供が望まれる。

 (2) SIDSと保育
 SIDSは家庭内に留まらない。保育施設におけるSIDSをめぐって裁判が行われ、法廷における「SIDS=不可抗力」が問題となっている。その問題点を追求し、保育制度について考えると共に、女性の社会進出、生殖医療の発達などに伴う、親子関係、育児観、出産観の変遷に触れ、SIDSとの関係の中で考察した。

 (3) SIDSを装う犯罪
 アメリカ合衆国ではSIDSの診断の際に最も注目されるのが殺人との区別である。日本における児童虐待 (Child Abuse) の増加が懸念される中、我が国の変死体に対する死後の処理 (死体の解剖等による原因追究) は全くお粗末としか言いようがない。そこから派生する日本のSIDS研究に関する問題点を浮き彫りにし、監察医制度、解剖の必要性について考察した。

第3章 SIDSをめぐるバイオエシックス的考察

 これまでのSIDSに関する情報、問題点を踏まえ、バイオエシックスの原理という視座から、SIDSについての総合的考察を試みる。また、「草の根運動」としてのバイオエシックス運動の立場から、SIDS家族の会の活動について考察すると共に、バイオエシックスの展望から、SIDSに関するこれからの問題点についても言及した。

終章 SIDSが意味するものとは・・・

 「様々な社会問題があるが故にSIDSは病気として用いられるべきではない。」と考える人がいる。果たしてそうだろうか? それらの問題は、もともと我々国民が、人間として当然保障されていなければならなかったことではないだろうか。SIDSという病気があったからこそ、問題が表面化したとは言えないだろうか。
 SIDSという運命を背負ってしまった赤ちゃん達のためにも、社会問題は、国により、我々の手により解決されねばならない。
 最も神聖にして最も危うい生命である赤ちゃん。
 その命を無駄にしてはならない。


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