第1章 在宅ホスピスケアへの高まり
私たちにとって、「死」というものは病院 (施設) にあるもの、となってしまっている。とくに日本人の死亡者全体の約30%という高い割合の人々ががんのために死亡しているが、その中での在宅死の割合は10%に満たない。病院においては過度の医療をほどこすことが当然とかんがえられており、そのための経済的負担も大きい。そしてなにより、不必要に思われる治療の繰り返し、儀式的な蘇生術による患者の苦痛・家族の苦痛は計り知れない。こうした現状の中で「在宅で死を迎える」ことへの願いは高まっている。
第2章 がんの末期症状における在宅ホスピスケア
在宅ホスピスケアは、まずなんといっても患者の強い希望、そして家族の希望・支えから始まる。そして、それをサポートする医療者側の力は必ず必要となってくる。
在宅ホスピスケアをとりまく様々な概念、また在宅ホスピスケアに関する様々な要件について述べ、その内容を検討した。
第3章 在宅ホスピスケアにおけるコミュニケーション
人間の生活にコミュニケーションは欠くことのできない大切な要素である。このコミュニケーションについて、特に医療現場では不足が指摘されるが、在宅ホスピスケアにおいて医療者側は、「あくまでも主役は患者である。その家族もまた主役である」という認識を持ち、双方とも互いに十分なコミュニケーションをとる必要がある。
「QOL」「告知」「インフォームド・コンセント」などのキーワードをもとに、患者・家族と医療者側のコミュニケーションについて考察した。
第4章 在宅ホスピスケアという選択
なぜ、「在宅ホスピスケア」という選択をしたのか、あるいはするのか、という視点から、具体的な事例として特定の家族のケースを取り上げて考える。
また、その問いを考える上で、私はあえて「コミュニケーション」、「ロケーション」、「ふれあい」という3点をその理由にあげた。これらは、そのまま「家」や「家庭」のもつ重要な要素とも言える。
第5章 在宅ホスピスケアをサポートする社会体制
第1章でも述べたような、患者や家族の側からの在宅ホスピスケアに対する高まりと前後するように、厚生省をはじめとする各機関も変化を見せている。その多くは高齢社会を睨んだものとも言えるが、がんをはじめとする慢性疾患の増加も視野に入れた「在宅医療」「在宅療養」に対する取り組みがここ10年足らずの間に多数行われてきている。
また、民間企業の参入や訪問看護センターの相次ぐ創設、ボランティアなどのヒューマンパワーも、これからますます大きな力となっていくであろう。
第6章 バイオエシックスの視座から
バイオエシックスの4つの視座のなかでも、特にAutonomy (自己決定) の原理に焦点を当てる。
在宅ホスピスケアの原点は患者の自己決定である。その点から、選択肢の一つとしての在宅ホスピスが多くの末期がん患者に望まれている現実が見えた。
おわりに
私は、この在宅ホスピスケアというものに対して非常に肯定的な立場から考察をすすめた。しかし、患者や家族の「家で死にたい」「家で看取りたい」という希望のみを優先させるだけであってはならない。
様々な利点と共に、問題点も多く介在する現在、患者や家族にとって最良の方法であると断言することは決してできない。しかし、在宅ホスピスを末期における人間の生、尊厳を支える重要な選択肢の一つとして更なる整備の必要を感じる。