不登校 (登校拒否) をめぐるバイオエシックス的考察
J95B115-0 田辺 由美子

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[序章 はじめに]
 学校に行けないことによってもたらされるプレッシャーと将来に対する不安。それは、不登校状態になってしまったことで、あたかも人生の敗北者になってしまったような挫折感を子どもたちに抱かせるだけの影響力をもっている。
 本研究では、このような不登校の子どもたちの悩みや葛藤を取り上げつつ、不登校の現状とその内容の実態に触れ、今後の展望を行い、子どもたちがその生命および発達の可能性を保持・成長させていくために、今何が必要とされているのかということについて、バイオエシックスの視座からの考察を行った。

[第I章 不登校 (登校拒否) とは]
 本章では、不登校 (登校拒否) をめぐる問題をバイオエシックス的観点から考察を行うにあたり、まず日本における不登校の現状と実態、また問題の変遷を示すとともに、明確な定義づけがなされていない用語について本研究を進めていくにあたっての定義を示した。また、概念の変遷によってもたらされた不登校への誤解についても触れた。

[第II章 子どもにとって不登校とは]
 本章では、不登校状態にある子どもたちにとって何が問題の中心を占めているのかを、特に (1) 自己否定感情 (2) 対人関係 (3) 進路・進学に関する不安、に関して検討を行った。なお、子どもたちの意識を把握するための資料としては、フリースクール「東京シューレ」によって実施されたアンケート結果を用いた。

[第III章 進路選択 〜変わり行く通信制高校の現状から〜]
 不登校の子どもたちにとって、進路の選択は深刻な悩みの一つである。特に、高校入学に際しては、全日制を希望しながらも、希望がかなわず、不本意ながらも定時制高校や通信制高校へ進学する者が多いといわれている。このような、近年の不登校生徒数の増加傾向を反映して、特に通信制への入学者の増加傾向が続いており、通信制高校の果たす役割にも変化が生じてきている。本章では、通信制高校における最近の動向を新潟県立新潟高等学校通信制の現状を中心に示した。

[第IV章 ホームスクールにみるアメリカ公教育の多様化]
 現在の日本の教育制度は、昭和20年代に当時のアメリカの教育制度をモデルにして作られたものであるが、近年のアメリカでは、公教育の多様化が進んでいる。例えば、従来の伝統的公立学校教育における教育方法とは異なった方法をとるオルタナティブスクールや、学校の代わりに親が子どもの教育を行うホームスクールなどである。
 今日、日本の教育制度は変革を求められているが、同じく教育制度の変革期を迎えたアメリカの教育制度における選択肢の広がりを、ホームスクール教育を例にとって検討した。

[第V章 バイオエシックスの視座からの考察 〜『子どもの権利条約』との関連から〜]
 1989年11月に成立した『子どもの権利条約』は、159の国からなる国際連合が多様な人種や民族、違う政治・経済・法制度、異なる子育て文化・家族のあり方・教育制度などの中で、法的拘束力のある条約として世界の子どもたちの権利章典をつくりあげたものであり、条約は、現時点における子どもの権利の国際的保障の共通基準である。この規定の中には、不登校の子どもたちの直面する問題に関連の深い項目も多く取り上げられている。
 ここでは特に、バイオエシックスの視座から、子どもの最善の利益 (第3条)、生命・生存・発達の権利 (第6条)、意志表明権 (第12条)、教育への権利 (第28条)、休息・余暇、遊び、文化的・芸術的生活への参加 (第30条) の5つを取り上げ、不登校をめぐる問題について考察を行った。

[終章 まとめ]
 「学校へ行けない」ことが、単に長期欠席を意味するものにとどまらず、子ども自身の存在自体を否定しかねない程の意味をもつものであるように思えてならなかった。
 私たちの生きている社会が「学校へ行けない」ことによって「生きること」が否定されてしまうと子どもが感じるような場であるのならば、それは、子どもに限らず全ての人間にとって生きにくい場であるといえる。
 このような現状を改善していく為には、教育制度における教育の機会選択の多様化と、不登校への認識の改善が必須である。


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