バイオエシックス夏期特別ゼミ研修
(於ワシントンD.C.)から得たもの (5)

NIH Clinical Center/レトロウィルス感染症研究室訪問
AIDS研究の第一人者が語った「患者の権利が強い疾患」
満屋裕明先生
(レトロウィルス感染症部長/臨床癌プログラム 内科療法部門)

 8月28日、私たちはNIH(National Institutes of Health)のClinical center内にある Dr.Mitsuyaの感染症研究室を訪れました。Dr.Mitsuyaは非常に気さくな方で、直接私たちを研究室に案内してくれて、楽しく説明をしてくれました。
 「ここじゃ手にウィルスがついてるかもしれないでしょ?だからね、ドアを開けるときは、こうやって開けるんだ」そう言って、Dr.Mitsuyaはおもむろに足でドアを開けて見せました。そして、「ウィルス培養装置が壊れた時どうすると思う?」と私たちに問いかけ、解決方法はあるものなのかなどと一生懸命考えている私たちに向かって一言。「まず逃げるんだよ、逃げるの!」
 そんなDr.Mitsuyaの的を得つつも面白い説明の様子に、妙な親近感と好感を覚えてしまったのは私だけでしょうか?・・・とにかく、Dr.Mitsuyaの説明は素人の私にとって全く分かり易いものであり、面白いものでした。
 研究室の見学が終わると、別室でDr.MitsuyaはAIDS治療の現在と今後の問題について、親しく私たちに語ってくれました。医学的な側面からも少し説明してくれましたが、私たちがバイオエシックスのゼミの生徒であるということで特に「倫理的な側面」に重点を置いて話してくれました。
 ここでDr.Mitsuyaから、例え詳細な「医学的解説」を受けても、少なくとも現時点で私たちが理解することは不可能であったにちがいません。また、可能であったとしても、彼のAIDSにおける医学的な論拠については今後、日本でいくらでも書物等によってアプローチ出来ることになると思います。Dr.Mitsuyaもそのあたり、気を配ってくれたものと思います(勿論、1時間しかなかったということもありますが・・)。従って、臨床的な感染症研究の第一人者であるDr.Mitsuyaが、逆にAIDSの「倫理的側面」を重視して、直接に色々語ってくれたことは私にとって大変嬉しいことでした。
 彼の話から、Black、Hispanicに感染者が非常に多いという深刻な事実、AIDSは患者の権利が強い疾患であり、患者たちが社会的に発言力の強い圧力団体を形成していること、また、薬害AIDS問題で混迷を極めている日本とは違い、アメリカでは比較的、事実として知られる前の対策が早期に行われたこと、さらにAIDSの臨床的研究における被験者は最終的にくじ引きで決まってしまうこと等、興味深い問題点を知ることができました。
 ところで、Dr.Mitsuyaは施設内倫理委員会(IRB; Institutional Review Board)の存在は認識されておられましたが、NIH内のBioethics officerのことはご存じありませんでした。これは興味深い事実であり、いずれIRBやNIHにおけるBioethics officerの活動、両者の関係はどのようなものなのか等を調べてみたいと思いました。
 いずれにしても、Dr.Mitsuyaは学者肌の臨床医学研究者であるにもかかわらず、バイオエシックスに深い造詣と関心をもっておられるように見受けられました。彼のようにバイオエシックスに理解を示す科学者が、臨床医学の世界に少しでも増えてくれることを願わずにはおれません。また、これからもDr.Mitsuyaが臨床医学界におけるBioethics Leaderの一員として、活動されていかれることを私は期待しています。

(早稲田大学大学院人間科学研究科 かわはらなおと)

次頁、「TLC(the Treatment and Learning Centers)訪問記」に続く


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