バイオエシックス夏期特別ゼミ研修
(於ワシントンD.C.)から得たもの (8)

自由研修
Holocaust Museum訪問

 8月30日、私たちのバイオエシックス夏期特別研修も、いよいよ最終日となりました。私は、この日疲れていて朝早く起きれなかったのですが、早朝からゼミの人たちが順番待ちをしてくれていたおかげ(本当に感謝しています!!)で、Holocaust Museumには到着するなり、すぐに入場することが出来ました。
 中に入ってまず驚かされたのが、飛行場顔負けの厳重なゲートでした。私は財布に鎖を付けていたので、すぐにランプが点灯しました。そして、警棒を持った係員の人が怖い顔で近寄ってきて、ポケットの中のものを全部出すように言われました。別にこういうことは初めての経験ではなかったのですが、普通の博物館と思って入ったら、入り口からいきなりシリアスな雰囲気だったので大いに驚かされました。それだけ展示内容が深刻なものであり、時にはテロさえあり得るものなのか・・と、改めてHolocaustというテーマの重大さを私は認識したのでした。
 このHolocaust Museumでは、ヒトラーが台頭する以前から、第二次世界大戦終結に至るまでの、ドイツをはじめとしたヨーロッパの様子を伝える貴重なフィルムが多数上映されていました。どのフィルムも、ヒトラーの声に翻るSwastikaと悲惨な捕虜達の様子とのコントラストが強調されており、非常に印象的なものでした。特に、ナチスによって反政府分子やユダヤ人だけではなく、同性愛者、さらに身体障害者までもが捕らえれていたという事実には改めて驚かされました。また、彼らの大半が非人道的な医学実験の対象にされている様子が鮮明に映し出されている映像は、目を覆いたくなるものばかりでした。 
 圧巻だったのは、ナチスによって捕らえられた捕虜達の膨大な数の靴の展示でした。この「靴の廊下」は何故か不気味なほど静かで、それでいて、どこからか日光が差し込み、無言の内に歴史の過ちを諭しているようで神秘的な気分になったのを今でも私は覚えています。 
 私は、このHolocaust Museumに3時間程いて、色々なことを考えていたのですが、やはり、行き過ぎたナショナリズムは人間の自己同一性を消滅させ、屈折したエゴイズムを生起させるものであると考えざるを得ません。そして、このようなエゴイズムはやがて人間を狂気に陥らせ、国家単位の犯罪を引き起こさせてしまうものなのでしょう。
 ヒトラーはかつて「大衆は利用して然るべきもの」といった考えを、そのポリシーのうちに潜めていたそうですが、どんな極限状態においても、国家の動向に対して盲目的に追従することなく、絶えず注目し、必要があれば忌憚のない発言や行動をする勇気を私たちは常にもっておかなければならないと思いました。
 現代の社会においては、このようなことを心配する必要もあまりないとは思いますが、バイオエシックスと究極的なまでに相反する事実の証明を集約したHolocaust Museumにおいて、逆にバイオエシックスを強烈に意識してしまったのは私だけではないと思います。

(早稲田大学大学院人間科学研究科 かわはらなおと)

次頁、いよいよ最終章「1996年、夏を振り返って・・・」に続く


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